2013年02月24日

憲法改正

7月の参議院選の最大の争点は「憲法改正」ですが、自民党が掲げている「憲法改正草案」は危険すぎます。
こういう話しをすると、すぐに「右」とか「左」だとか「保守」とか「革新」だとかいう人がいますが、右でも左でも前でも後ろでも、赤でも白でも黄色でも青でも関係なく、憲法が改正されれば命に関わる重大な影響を受けます。
憲法を知らないまま、単に「制定から60年以上経って古くなったから」とか「一度も改正していないから」「北朝鮮が攻めてきたらどうするの」といった理由で改正に賛成しないで欲しい。そんな安易な気持ちで、うちの子ども達を戦場に送らないで欲しい。
そこで、僕はまず「憲法」というのが一体何なのか皆さんに知っていただきたいと思います。憲法を知った上で、自民党の「憲法改正草案」を読んでいただきたい。
以下、長文ですが、昨日、講演で話したことをまとめました。ぜひお読み下さい。
そして、少人数でも構いません、憲法の話が聴きたいという方、僕を呼んで下さい。僕はあなた方のためではなく、自分の子どもを守るために駆けつけます。

【憲法の意味】
・形式的意味:「憲法」という名前で呼ばれている法典
・国家統治の基本法:どの時代、どの国家にもある
・立憲主義に基づく憲法:「フランス人権宣言」(1789)の自然権思想に基づく近代国家の憲法
近代国家では「憲法」というと、この立憲主義に基づく憲法を意味します。
立憲主義に基づく憲法とは「権力を制限して,国民の権利を保障する高次の法」のことを言い、国民の人権を守ることを目的として、国家権力を制限して権力者の横暴を阻止するために、国民が国家権力に突きつけた決まり事のことを言います。
ポイントは、国民の側から権力者に対して「権力者はこれをするな」「権力者はこれをしなさい」と突きつけた命令だということ。法律が、国家権力が国民に突きつけた決まり事であるのとは逆です。

【人権の根拠】
では、人権はどこから来るのでしょうか
国王(天皇)から与えられるものでしょうか?
→違います。
神から与えられるものでしょうか?
→違います
義務の裏返しでしょうか(義務を果たすから与えられるのでしょうか)?
→違います
人権は、人間が生まれながらに有するもの(自然権)です。

【人権の限界】
人権といえども無限定に保障されるものではなく「公共の福祉」(13条)による制限を受けます。
「公共の福祉」とは、人権相互の矛盾衝突を調整することを言います。
人権が制限されるのは、飽くまでも人権と人権がぶつかってしまった場合だけです。
例えば、同じ市民会館で同じ日に、憲法の講演会をやりたいという方と、平和をテーマにしたバンド演奏をやりたいという方がいたとします。どちらの要望も「表現の自由」として保障されます。しかし、同じ時間に同じ会場でこの二つのことを行うことはできません。こういう場合、例えば、申し込みが早かった方を優先し、遅れた方は別の日に変更するなど調整をします。この調整が「公共の福祉」です。
これを「公益」で制限することは許されません。
例えば、TPPに反対する農家の方々が公民館で集会を開こうとした時、TPPを推進する政府が、TPPに反対するのは国益に反するからという理由で、この集会をやめさせることは許されません。
※ちなみに、自民党の「憲法改正草案」では、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に書き換えられています。つまり、上記の農家の方々の集会を政府が制限することも可能になるということです。実は明治憲法がそうでした。

【自民党「憲法改正草案」の特徴】
@  立憲主義から非立憲主義へ
A  平和主義から戦争をする国へ
B  天皇の元首化と国民主権の後退
C  権利拡大には後ろ向き、義務拡大には前のめり
法学館の伊藤真氏(弁護士)の分析から引用
http://www.jicl.jp/jimukyoku/images/20130131.pdf

現行憲法と自民党の改正案とを比較します。憲法を囓ったことがある方なら、自民党の「憲法改正草案」の異常さが分かると思います。

【前文】
(現)「日本国民は」→(改)「日本国は」
※憲法とは、国民が国家権力に対して突きつけた命令ですから、主語は国民となるのが当然ですが、改正案では「日本国」となっています。

(現)「主権が国民に存する」→(改)「天皇を戴く国家」

(現)「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して安全と生存を保持」→(改)「国民は国と郷土を誇りと気概を持って守り」
※改正案では国民に国防の義務が課されそうです。

(現)「福利は国民がこれを享受する」→(改)「家族や社会全体が互いに助け合って」
※高齢者、障がい者など弱者の面倒は家族や地域でみなさい。国は助けませんよ、と言っているようなもんです。

【天皇】
(現)「天皇は、日本国の象徴」→(改)「天皇は、日本国の元首」

(現)「天皇は、国事に関する行為のみを行い」→(改)「天皇は、国事に関する行為を行い」「天皇は、その他の公的な行為を行う」
※天皇の行為を国事行為に限定しなくなったことで、天皇の機能を強化しています。明治憲法下で天皇が政治的に利用され戦争遂行のシステムとされたのと同じ危険性を感じます。

【戦争放棄】
(現)「戦争放棄」→(改)「安全保障」

(現)「国の交戦権は、これを認めない 」→(改)「自衛権の発動を妨げるものではない」
(改)「国防軍を保持する」
(改)「国会の承認その他の統制」
※「その他の統制」の文言を入れることでシビリアンコントロールを骨抜きにしています
(改)「国際的に協調して行われる活動を行うことができる」
※アメリカが行くところどこにでも派兵させられるということ
(改)「公の秩序を維持するための活動を行うことができる」
※国防軍の銃口は戦争反対を訴える日本人にも向けられるということ
(改)「国民と協力して資源を確保しなければならない」
※石油やレアメタルなどの資源確保を名目に周辺諸国と戦争を始め、その戦争には国民は参加しなければならないということ。

【人権の限界】
(現)「公共の福祉に反しない限り」→(改)「公益及び公の秩序に反しない限り」
※国益に反するという理由で人権制限が可能になる。その「国益」を法律で決めるとしたら、明治憲法下の法律の留保付きの人権保障と同じになる。そうなると、もはや立憲主義に基づく憲法とは言えず、近代国家ではなくなる。ちなみに、北朝鮮の憲法も、各種人権は保障していますが、人権の章の冒頭に「一人はみんなのために、みんなは一人のために」との文言があるため、みんなのため(公益)を理由に広範な人権侵害が可能となっています。北朝鮮憲法と自民党の改正案は驚くほど似ています。近代立憲主義を否定しようとする基本的な考え方は同じです。
(改)「自由及び権利には責任及び義務が伴う」
※義務を果たさない(果たせない)者の人権は制限しても良いという考えに結びつきます。

【国民の義務】
(現)
教育の義務
勤労の義務
納税の義務
(改)
現行憲法の3つの義務に加えて
・国防義務
・日の丸・君が代尊重義務
・領土・資源確保義務
・公益・公の秩序服従義務
・個人情報不当取得等禁止義務
・家族助け合い義務
・環境保全義務
・地方自治負担分担義務
・緊急事態指示服従義務
・憲法尊重擁護義務
※憲法ってのは、国民が国家権力に対し、あれしちゃダメ、これしなさいと義務付けている命令なのに、改正案では、命令される側の国家権力が国民に命令しちゃってます。もはや「憲法」とはいえません。

【緊急事態】
(現)なし→(改)「緊急事態宣言」
※要は首相が「戒厳令」を発動することができるってこと。「戒厳令」というのは、憲法を停止し、三権分立を廃し、権力を首相(軍部)に集中させるというもの。明治憲法下の2.26事件や、中国の天安門事件が戒厳令の例です。「戒厳令」を発動したいって、安倍氏は日本をどんな国にするつもりでしょうか。21世紀の近代国家とは思えません。

(改)事後承認で足りる
※首相が「緊急事態宣言」を出すのには国会の承認を要するとしていますが、事後承認で良いとしています。憲法を停止し、全権力を首相が掌握し、裁判所も機能せず軍部が実権を握ったあとで、国会議員が事後承認に反対するのは命がけです。死を覚悟して反対できる国会議員が過半数もいるとは思えません。

(改)緊急事態指示服従義務  
※首相が緊急事態宣言を出せば、国民は服従しなければなりません。反対することは死を意味します。  

【憲法改正】
(現)「総議員の3分の2」→(改)「総議員の過半数」
※現政権は、まずはここだけを改正してくるでしょう。ここを改正すれば、法律と同じく過半数で憲法の他の条項を改正することができますので。現行憲法が一度も改正されていないことを、自民党はマイナスのように宣伝しますが、こんなにムードに流されやすい国民性(民主主義が根付いていない風土)のもとで、憲法を改正しやすくすることは権力者の横暴を許してしまうことになります。日本の民主主義が未成熟だからこそ、改正しにくい硬性憲法となっていることを忘れてはなりません。

【憲法尊重擁護義務】
(現)「天皇、摂政、国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員」は憲法を尊重し擁護する義務を負っています。→(改)天皇、摂政は義務から除外されます。その代わり「国民」が憲法尊重擁護義務を負います。
※そもそも「憲法」は、国民が権力者に対して突きつけた命令ですから、天皇以下の権力者がその命令の名宛人となるのは当然です。ですから現行憲法は「天皇」以下の権力者に憲法尊重擁護義務を課しています。逆に「国民」は天皇らに命令を発した側ですから入っていません。改正案では、権力者である天皇(国王)が憲法尊重擁護義務から解放され、逆に国民が義務を負わされています。なぜ命令の名宛人である「天皇」が除外され、命令を発した側が義務付けられるのか。立憲主義憲法の全否定であり、フランス革命以降の人類の歩みを否定し封建的な専制君主国家へと逆戻りするものです。

これでも憲法改正に賛成しますか?
自分の子の命を国に捧げる覚悟で憲法改正に賛成しますか?

自民党「憲法改正草案」
http://www.jimin.jp/activity/colum/116667.html
posted by 後藤富和 at 16:18| 平和