西日本新聞の聞き書きシリーズで先日まで116回にわたって連載された(最長連載タイ記録)「たたかい続けるということ 弁護士 馬奈木昭雄さん」を担当した阪口由美記者と馬奈木弁護士の対談を聴きに行ってきました。
馬奈木弁護士は、水俣病問題に取り組んだのを皮切りに、筑豊じん肺事件、南九州税理士会事件、中国残留孤児事件などを担当し、現在は、よみがえれ!有明訴訟の弁護団長として諫早干拓の開門、有明海沿岸地域の再生に取り組んでいます。また、脱原発の運動にも尽力されています。
日頃、マスコミの姿勢で気になるのは、中立公平に美名の下、他方の意見が明らかに誤っている時でさえもその意見を検証することもなく垂れ流すことです。それは中立でも公平でもありません。その点、係争中の大型訴訟(よみがえれ!有明訴訟)の弁護団長であっても「聞き書きシリーズ」の対象とした西日本新聞の姿勢は勇気ある素晴らしいものだと感じます。
この連載を担当した阪口由美記者は、弁護士1年目の時に僕の特集記事を書いてくれた方です。有明海の漁業被害を調べるために夜遅くに有明海沿岸の漁村を歩いて漁民と語り合っている姿を記事にしてくれました。僕の自宅にも取材に来るほど熱心な方です。
司法記者として取材をする中で、C型肝炎の患者や有明海の漁民など原告たちの人間回復に寄り添う弁護士の姿勢に感銘を受けたこと。若い弁護士や法科大学院生にはそういった弁護士になって欲しいと願っていること。弁護士の仕事は過去の清算ではなく未来を語る仕事であるということが分かったことなどを話していただきました。
馬奈木弁護士は、相談者と対峙していて、希望をともに語っているだろうかといつも自分に問いかけているとのこと。
原動力は、権威に対する絶対的な憎悪。
「正論」だけでは人は動かない。人を動かすのは「怒り」である。しかも、私憤から出発して公憤になること。いつまでも私憤では国民の共感は得られない。モグラ叩きではなく抜本的に解決すべき。
被害者の願いは、加害者に同じ思いをさせることでなく、被害は自分で最後にして欲しいということ。
水俣は、ようやく地域再生の緒についたところ。
よみがえれ!有明というのは、単なる漁業被害の救済ではなく、地域の再生。原告の平方さんが、損害賠償を認めた長崎地裁判決に対して「われわれは金が欲しいんじゃない」と言い切った志の高さ。
これが正面から問われているのが福島原発。当面の被害補償は必要だが(これはスピードを持ってやるべき)、被害者の願いは被害補償にあるのではない。地域の再生。そして、原発被害をこれで最後にすること。
原発を止めるのは判決の力ではない。国民の力だ。
大変有意義な講演会でした。
最後に「たたかい続けるということ」の最終回の締めくくりを引用します。
「弁護士の仕事は過去に起きた物事の清算ではない。未来への取り組みです。最初は損害賠償から始まり、被害未然防止のための事業差し止めまで到達する。さらに地域の再生。実現させるのは「お上」ではなく、被害者を中心とした地域全体の運動、国民です。私たちの取り組みの真価がフクシマで問われ、検証されようとしている。まさに、たたかいは続いていくのです。」(西日本新聞2012.3.3朝刊)
2012年03月19日
西日本新聞「たたかい続けるということ」阪口記者と馬奈木弁護士の対談
posted by 後藤富和 at 08:03| 日記